ムーンショット計画の目標9では、ストレスを抱える人に対して、幸せや前向きさを取り戻す「精神医療」がテーマです。
人間の心や脳の負担を軽減するために、科学技術を用いて、人間の精神状態を知ることや、新しい治療方法の開発を行います。また、人のストレスの原因となる、いじめなど…そのものをなくすことも、目的のひとつとしてあります。
【ムーンショット計画 目標9】
2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現
本記事では、内閣府が提示している資料を元にムーンショット計画目標9の説明をします。
そして最後に、伝統芸能・文化が医療効果があることを解説した記事をご紹介しています。また、現在開発されているテクノロジーから「五感をコントロールするVR」の紹介と、VRの注意点について解説した後、新しい社会での「テクノロジーと芸術」「芸術と医療」「医療とテクノロジー」3つの成長について、当社の考えをお話しています。
ムーンショット計画9「ターゲット」

- 2050年までに、こころの安らぎや活力を増大し、こころ豊かな状態を叶える技術を確立する。
- 2030年までに、こころと深く結びつく要素(文化・伝統・芸術等を含む。)の抽出や測定、こころの変化の機序解明等を通して、こころの安らぎや活力を増大する要素技術を創出する。加えて、それらの技術の社会実装への問題点を幅広く検討し、社会に広く受容される解決策の方向性を明らかにする。
- 2050年までに、多様性を重視しつつ、共感性・創造性を格段に高める技術を創出し、これに基づいたこころのサポートサービスを世界に広く普及させる。
- 2030年までに、人文社会科学と技術の連携等により、コミュニケーションにおいて多様性の受容や感動・感情の共有を可能にする要素技術を社会との対話を広く行いながら創出する。
※引用元:内閣府「ムーンショット計画9」

ムーンショット計画9「関連するエリアとビジョン」
- Area :「サイエンスとテクノロジーでフロンティアを開拓する」、「急進的イノベーションで少子高齢化時代を切り拓く」
- Vision :「ミレニアム・チャレンジ」
※引用元:内閣府「ムーンショット計画9」
ムーンショット計画9「目標の背景」
・新型コロナウィルス感染症の発生は、自殺やうつ病など精神的要素に起因する社会問題を、更に顕在化・深刻化させている。我が国の自殺者数はここ10年間ほど減少傾向にあったが、コロナ禍となった2020年には増加に転じている。また、自殺・うつによる社会損失は、年間2兆7千億円という推計もある。
・サイバー空間の活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)等が進み、生活は変容しているのに対し、人間の複雑なこころの状態(感覚・感情・思考等)を考慮しきれておらず、こころをサポートするためには新しい科学技術が必要である。
・近年、センサ・計測、コンピュータ、画像解析、AI・CPS、ビッグデータ解析等の技術発展が著しく、これまでその仕組みが解明されていなかった「こころ」について、新たなアプローチによる野心的な研究開発に挑戦できる機会になってきている。
・こころの安らぎや活力を増大するためには、こころ豊かな状態を叶える技術、共感性・創造性を格段に高める技術について、要素技術に分解しながらコアとなる技術を特定・確立していくことが必要である。
・加えて、こころにアプローチする技術・サービスの研究開発には、個人情報等の得られたデータの取扱いに関するルールや倫理的な課題等への対応の検討が必要であり、相当な時間を要すると考えられる。したがって、これらの課題の検討を行う専門家チームの設置を必須とするとともに、実証実験等の際には、多様なステークホルダーとの対話等を通じて、常に社会に開かれた状態での実施に努めるなど、研究開発と一体化した対応を行うべきである。
・これらの研究開発を、自然科学と人間に深く関わる知(哲学・芸術等の人文社会科学)が、連携して進めることは、多様な伝統・文化を持つ日本の「総合知」発揮の機会となる。
※引用元:内閣府「ムーンショット計画9」
ムーンショット計画9「目指す社会」
ムーンショットが目指す社会
・過度に続く不安・攻撃性を和らげることが可能になることで、こころの安らぎをより感じられるようになる。また、それぞれの寛容性が高まり、人生に生きがいを感じ、他者と感動・感情を共有し、様々なことに躍動的にチャレンジできる活力あるこころの状態の獲得が可能になる。
・人が互いにより寛容になることで、差別・攻撃(いじめやDV、虐待等)、孤独・うつ・ストレスが低減する。それにより、精神的なマイナス要因も解消され、こころの病が回復し、一層の社会・経済的発展が実現される。
・本研究で得られた知見を核とする新しい産業が国内外に拡大する。
※引用元:内閣府「ムーンショット計画9」
ムーンショット計画「プロジェクト一覧」
- 仏教・機械・脳科学で実現する安らぎと慈しみの境地
- 多様なこころを脳と身体性機能に基づいてつなぐ「自在ホンヤク機」の開発
- データの分散管理によるこころの自由と価値の共創
- 脳指標の個人間比較に基づく福祉と主体性の最大化
- 逆境の中でも前向きに生きられる社会の実現
- Awareness Musicによる「こころの資本」イノベーション
- 子どもの好奇心・個性を守り、躍動的な社会を実現する
- 食の心理メカニズムを司る食嗜好性変容制御基盤の解明
- こころの可視化と操作を可能にする脳科学的基盤開発
- 被虐待児、虐待加害、世代間連鎖ゼロ化社会
- AIoTによる普遍的感情状態空間の構築とこころの好不調検知技術の開発
- 「私たちの子育て」を実現する代替親族制のための情報社会基盤の開発
- 楽観と悲観をめぐるセロトニン機序解明
※引用元:内閣府「ムーンショット計画9」
ムーンショット計画9は、「個人」「個人間」「集団」の、3つの場面から想定できる問題点をピックアップしています。
- 「個人」における、うつ・ストレス・不安・孤独・自殺
- 「個人間」における、虐待・DV・いじめ
- 「集団」における、軋轢・紛争・多様性への不寛容
※引用元:内閣府「ムーンショット計画9」
仏教・機械・脳科学で実現する安らぎと慈しみの境地
・プロジェクト概要
※引用元:科学技術振興機構「ムーンショット計画9」
仏教と脳科学の知見にもとづき、心の状態遷移を脳ダイナミクスの観点から解明、その応用を行います。大規模調査と小集団への詳細な調査を組みあわせた心の状態に関する個性のモデル化、脳ダイナミクスの遷移をリアルタイムで推定し、可視化する技術の開発、それらに裏打ちされた瞑想法の開発と社会実装を行います。これらを通して、自分自身と向き合うことで、安らぎと活力を増大し、他者への慈しみを持てる社会を実現します。
多様なこころを脳と身体性機能に基づいてつなぐ「自在ホンヤク機」の開発
・プロジェクト概要
さまざまな場⾯でコミュニケーションを⽀援する「⾃在ホンヤク機」を開発し、多様な⼈々を包摂する社会をもたらします。神経科学・分⼦⽣命科学と、VR/AR・ロボット⼯学の分野の研究者が協⼒して、こころの状態を定量化する技術を研究するとともに、知覚・認知や運動機能への介⼊法を研究します。これらの成果を融合して開発する「⾃在ホンヤク機」は、個⼈、個⼈間、あるいは、数⼈から数⼗⼈程度の⼩グループを対象としてコミュニケーション⽀援します。
※引用元:科学技術振興機構「ムーンショット計画9」
データの分散管理によるこころの自由と価値の共創
・プロジェクト概要
※引用元:科学技術振興機構「ムーンショット計画9」
中央集権AI(CAI)と注意経済(AE)がこころの自由と民主主義を脅かしパーソナルデータ(PD)による価値創造を阻害しています。個人のPDを本人のパーソナルAI (PAI)だけがフル活用する分散管理の方が付加価値が高いことを示しそれをPAIの民主的なガバナンスとともに普及させてCAIをPAIで置き換え、さらに情報の真正性の検証と多様な情報へのアクセスを容易にする共同作業支援ツールをPDの分散管理とともに広めることで、こころの自由を擁護し価値共創を促進します。
脳指標の個人間比較に基づく福祉と主体性の最大化
・プロジェクト概要
※引用元:科学技術振興機構「ムーンショット計画9」
社会状況に応じて「幸せ」は変化します。「幸せ」の異質な2要素、「福祉」と「主体性」を、社会科学的に追求、特定するとともに、仮想現実技術を用い、個々人の実感としての「効用」と「動機」へとそれぞれ還流します。そのために、それら「幸せ」の指標を、個々人が実感できかつ個人間比較可能な形で脳・神経活動から計測する確かな技術を実現・提供します。本プロジェクトは、人文・社会科学的なアプローチと自然科学的なアプローチとを統合することで、社会状況に応じた「幸せ」を常に更新しつつ、その向上と平等化が常に追求され続ける社会を実現します。
逆境の中でも前向きに生きられる社会の実現
・プロジェクト概要
※引用元:科学技術振興機構「ムーンショット計画9」
逆境の中でも人々が「前向き」に生きられる社会の実現を目指し、個々人の「前向き」の程度を数値化して計測・調整する技術(前向き計測技術、前向き訓練技術、前向きアシスト技術)を開発するとともに、個々人のニーズに合わせた「前向き」をサポートできるように、「前向き」を支援する専門家(前向きトレーナー)の養成を提言するなど、「前向き」の社会支援実装に向けた環境を整備します。
Awareness Musicによる「こころの資本」イノベーション
・プロジェクト概要
※引用元:科学技術振興機構「ムーンショット計画9」
本プロジェクトでは、1)音楽や超知覚音の「自分や他者のこころへの気づき」促進効果の脳科学的根拠に基づくAwareness Musicの創発、2)ウエアラブル感性可視化装置を用いたAwareness Musicによる気づき促進技術、3)Neuro-Bio Feedbackによる癒し・感動・一体感などポジティブ感性の向上技術、4)共感を促進する感性コミュニケーション技術などを開発します。これらの技術を統合した「こころの資本」強化技術を社会実装し、2050年のメタバース時代に、個々人がこころ豊かに活躍し、相互理解と共感による平和社会の実現を目指します。
子どもの好奇心・個性を守り、躍動的な社会を実現する
・プロジェクト概要
※引用元:科学技術振興機構「ムーンショット計画9」
幼少期に自尊感情が著しく傷つけられるとレジリエンスが生涯にわたり低下します。これを防ぐことで、だれもが安心できる環境で、生来の好奇心を発揮しながら成長できる環境を実現します。それにより能動的意欲と独創性に満ちた社会を実現します。具体的には、個性の脳画像技術により子どもの脳の個性を客観化し、最適化された芸術活動による介入の効果を「見える化」し、自治体の「子どもの好奇心・個性を守る学校構想」と連携しながら社会実装していきます。
食の心理メカニズムを司る食嗜好性変容制御基盤の解明
・プロジェクト概要
※引用元:科学技術振興機構「ムーンショット計画9」
食は愉しみを通してこころを満足させます。一方、食習慣は食嗜好性によって形成され、経験依存的に変化します。時には食習慣は疾患の原因となりますが、健康重視の食習慣への改善は精神的苦痛となります。そこで、本プロジェクトでは食の観点から「こころの安らぎや活力を増大させる」ことを達成するため、齧歯類モデルを用いて食習慣形成のメカニズムを神経科学的に解明し、健康に優しい食を愉しんで食べる食習慣への改善技術を開発することに挑戦します。
こころの可視化と操作を可能にする脳科学的基盤開発
・プロジェクト概要
※引用元:科学技術振興機構「ムーンショット計画9」
行動中マウスの脳機能ネットワーク動態を可視化するバーチャルリアリティ(VR)システムを開発することで、社会的環境において互いにコミュニケーションを行うマウスの「こころ」の状態を脳機能ネットワークの変化として定量化します。さらに、オプトジェネティクスによる脳機能ネットワーク光操作技術を開発し、マウスの「こころ」の状態変化を人為的に生じさせることで、脳機能ネットワークがどのように「こころ」の変化に対応し、行動を変化させるに至るかを明らかにします。
被虐待児、虐待加害、世代間連鎖ゼロ化社会
・プロジェクト概要
※引用元:科学技術振興機構「ムーンショット計画9」
後々では取り返し難い「こころ健やかな幼少期を送ること」を、すべての人が享受できる被虐待ゼロ化社会を実現するブレイクスルー技術の社会実装を目標とします。そのために、子どもの被虐待状態、母親の虐待加害リスクを反映するエピゲノムパネルの開発・実用性検証を行います。また、加害母や保護された被虐待児への介入・新規治療標的の開拓を目的に、ロボットを介した遠隔育児支援の実用試験、こころと身体の乖離に関わる神経生物学的基盤の脆弱性解明を⾏います。
AIoTによる普遍的感情状態空間の構築とこころの好不調検知技術の開発
・プロジェクト概要
※引用元:科学技術振興機構「ムーンショット計画9」
本研究開発プロジェクトでは、IoT(Internet of Things)による日常生活下での生体情報計測とAI(Artificial Intelligence)技術の融合(AIoT)により、主観報告によらない動物種を超えた客観的かつ普遍的な感情状態空間(生体情報―感情状態マップ)の構築を目指します。さらには、感情状態空間内での状態遷移動態に基づき、ヒトの心身の不調や変調、あるいは幸福やウェルビーイングといった活力ある状態(好調)を検知・把握する技術の確立を目指します。
「私たちの子育て」を実現する代替親族制のための情報社会基盤の開発
・プロジェクト概要
※引用元:科学技術振興機構「ムーンショット計画9」
子育ての責任偏重は、子育て世代の精神機能の低下、女性の社会進出の停滞、高いストレスを持つ親元で育つ子どもの心の豊かさに影響を及ぼします。本プロジェクトでは、親と子どものこころの状態遷移を計測・共有し他者と共感的な関係性を生み出し維持する仕組みと、制度的な関係の相互保証を実現するブロックチェーンに基づく子育ての仕組み“代替親族制”を構築し、子育て世代と子どものこころの豊かさの実現を目指します。
楽観と悲観をめぐるセロトニン機序解明
・プロジェクト概要
※引用元:科学技術振興機構「ムーンショット計画9」
神経修飾物質の一つであるセロトニンは将来報酬のための辛抱強さを調節する役割があることが分かっています。本研究では同じ辛抱行動であってもその目的が「喜び」なのか、反対に「苦しみの回避」なのかによってセロトニン神経ネットワークにどのような違いが生じるか、行動課題中マウスの神経活動記録・操作から詳細に調べます。私たちが活力にあふれたこころで生きていく上で大切なことは何か?この謎の答えを神経活動から探索します。
ムーンショット計画9の説明はここまで
いかがでしょうか。今回の内容を簡単にまとめます。
こころの安らぎを感じられるようにして、生きがいを感じながら様々なことにチャレンジできる活力を与えるようにします。具体的には、差別・いじめや虐待などの攻撃・うつ・孤独・ストレスなどの低減をすることです。これによって、病が回復した後、より一層社会活動・経済活動へと繋がっていけることが期待できます。
最後に【当社の考え】
最後に、以下について当社の考えをお話します。
- 【参考記事紹介】人の心に結びつく伝統芸能や文化は「精神医療につながる」
- 五感コントロールするVR
- VRの注意点
- 「テクノロジー & 芸術 & 医療」の成長
- 最後に
【参考記事紹介】人の心に結びつく伝統芸能や文化は「精神医療につながる」

精神医療は、科学技術で治療できるようになりますが、ある医療従事者の方が、文化、伝統、芸能などは病気の治療に有効であることを伝えており、一部を紹介したいと思います。
日本の伝統芸能に息づく「医療的効用」
「日本の歴史をさかのぼると、日本には古来より伝わる独自の医療がなく、中国医学、インド医学(アーユルヴェーダ)、西洋医学と、外から取り入れてきたように見えます。でも、本当にそうなのだろうかと、かねてから疑問を抱いていたのです。
芸術、東洋哲学などあらゆる領域を学び、私が日本の医療の原点を見出したのは伝統芸能でした。日本の伝統芸能には、姿勢から体の使い方、呼吸に至るまであらゆる所作に作法があります。この作法は、現代人からすると堅苦しく感じられるかもしれませんが、体の構造からすると、ひじょうに理にかなっています。正しくおこなうことで体は最適化されて、心身が調和した心身一如の境地に導かれることに気づいたのです」
能楽、狂言、歌舞伎、人形浄瑠璃、武道、華道、茶道、書道、工芸…、日本のあらゆる伝統芸能や技能には、心と体を調和させて整えていく深遠な知恵が詰まっています。
「伝統芸能における体の使い方は、歳をとればとるほど研ぎ澄まされていきます。その人の年齢や体の状態に応じた調和を目指すことができるのです。それによって心身が整い、病気が治っていくこともあるでしょう。また、病気があったとしても、より良い共存・共生関係をつくることができるのです」
職業、芸術、健康が渾然一体として、一つの「道」となる。それこそが日本人が古来より実践してきた健康学だったのです。
※参考サイト:PHILIPS「日本の伝統芸能に見出した医学の原点。芸術を「自己治療」に生かす新しい医療のかたち」
すぐれた芸術は「生きる力を高める」
「穏やかな美が描かれる印象画や水墨画のような芸術は、見る人の心を浄化して、心地よい境地へと導いてくれる作用があります。一方で、岡本太郎や横尾忠則のような、おどろおどろしい毒を含んだ世界を描いた芸術もある。これらは自分を日常世界から引き剥がして、異次元の世界へと連れていく力があります。
芸術が私たちの心に起こす作用は、大きな青い海を見たとき、自分の悩みがちっぽけに思えて、気持ちが晴れてくるのとよく似ています。体が不自由だったり、病気があったり、私たちは生きていくうえでさまざまな悩みに直面します。その悩みに支配されると、生きる力や希望を見失ってしまうこともある。
でも、それが『小さな悩みだ』と思うことができたとき、その人は生きる強い力を取り戻すことができます。そうなれば、自分なりに工夫して乗り越える知恵や勇気、自ら治していく力が湧いてくる。その一連の作用は現代医学では実現できないものであり、芸術がもっている医療的効用なのです」
※参考サイト:PHILIPS「日本の伝統芸能に見出した医学の原点。芸術を「自己治療」に生かす新しい医療のかたち」
「治る」力を最大限引き出す医療へ
「たとえば、怒りっぽい人っているでしょう。僕に言わせると、あれも自己治療の一環です。モヤモヤした不安や恐怖を大きな声で怒鳴ったり、その場を支配することで解消する。でも、周囲の人は苦しいし、本人の不安や恐怖が消えるのはほんの一瞬で、いいことは一つもない自己治療の悪い例です。『わたしはもうダメだ、不幸だ』と悲観的な人も同じ。自己憐憫から一種のカタルシスを得ているのです。
誤った自己治療のループに陥っていれば、それをもっと創造的な治療に切り替えていくのが僕の役割です。たとえば、よく怒る人は、声楽や能で大きな声を出して思いっきり発散してもらうのもいいかもしれません。本人に合わせた“自己治療の処方箋”を提案していくのです」
実際に臨床の場でも、不眠症に悩む認知症患者さんに、ご本人が得意だった「習字」を治療の一環として提案するなど、芸術による自己治療をすすめることがあるといいます。
「『治す』という考え方と、『治る』という考え方があります。西洋医学は『治す』ことに主眼を置いていますが、体には自然治癒力が備わっていて勝手に『治る』ことができます。
では、どうやって『治る』力は引き出されるのか。たとえば、深い森に入ると深呼吸になる、筆を持つとおだやかな気持ちになる、好きな人に会うと元気が出る――こうした身体感覚は、治るプロセスを駆動させる力がある。自分が好きな分野の芸術や文化、自然にふれることは、治るプロセスが起こりやすい条件を提供してくれると私は考えるのです」
自分の好きなことに没頭することも、「治る」力につながっていく。そうだとしたら、治療の場とは、病院ばかりでなく、私たちの生活の中にもふんだんに溢れているのかもしれません。
医療の場は、病院だけではない。自分の住む家から街、自然や公園、文化施設にいたるまで――健康づくりの場を生活中心に広げていくのは、フィリップスの目指すHealth Continuumというヘルスケアプロセスにも重なります。高度先端医療が発達する一方で、「いかに病気を予防していくか」「いかに病気と共存して幸せに生きるか」は、これから私たちが向き合うべき大切な課題なのです。
※参考サイト:PHILIPS「日本の伝統芸能に見出した医学の原点。芸術を「自己治療」に生かす新しい医療のかたち」
五感コントロールするVR
ムーンショット計画9では、健康重視の食生活に変わる新しい社会において、科学技術を活用してストレスにならない食べ方を提供します。既に、VRで五感操作できるモノが開発されており、今回は一部だけご紹介します。
「臭覚」をVRでコントロールする
たとえば、臭覚では、「バクソーVR」という、匂いの体験を加えることができるデバイスがあります。本体内に匂いを発生させるカートリッジが内臓されているため、HMDの下部に取り付けることで匂いの再現が可能になります。
「味覚」をVRでコントロールする
また、味覚では、東京大学の「五感インターフェース」での研究で行っています。たとえば、HMDをつけた被験者が持っているのは「バタークッキー」ですが、HMDを通して被験者が見ているのはチョコレートクッキーで、被験者の鼻はチョコレートの匂いを嗅いでいます。この状態でバタークッキーを食べると、被験者の8割以上が「チョコレートクッキーの味がした」と答えており、味覚のコントロールもできることがわかっています。
VRを使って「視覚」からコントロールする
「Virtue」が開発したVRによる認知症のケアサービスがあります。心理療法に写真や書籍などの思い出の品を使って、視覚的に刺激を与える回想法があり、VRの没入感を使えば、昔住んでいた懐かしい家など、再現が難しい光景も甦りやすくなります。
また、VRがもたらす没入感には、目の前に広がる映像を本物だと脳に錯覚をさせる力があります。これを応用して、PTSDの治療や下半身不随の方に向けたトレーニングを行ったところ、補助つきですが脳波でパワードスーツをコントロールして、自力で歩けるようになった研究結果もあります。
VRの注意点
VRは、脳が錯覚してしまうほどの没入感があるため、現在改良中ではありますが、 「VR酔い」と呼ばれる現象もあり、乗り物酔いのような感じで、吐き気や頭痛などをもたらすこともあるので注意が必要です。
たとえば、本人はただ立っているだけなのに、VRを通して見えたものが右に曲がっている様子を見て、自分の感覚との不一致が起きて体調を崩すことがあります。
「テクノロジー & 芸術 & 医療」の成長
「テクノロジーと芸術」「芸術と医療」「医療とテクノロジー」という3つが上手く混ざり合い、新しい社会で成長をしていくのだと思います。
たとえば、ムーンショット計画5で紹介しました「昆虫食」を、現時点で「食べたくない…」という声も挙がっていますので、食事に対するストレスが増えたり、テクノロジーを使った治療方法も開発されていくのだと思います。
そして、本記事で紹介しました「伝統芸能」も必要になるので、古来からある芸能~新しい芸能まで幅広くあると良いでしょう。

最後に…
VRだけではなく、どんな物・モノでも必ず良し悪しがあり、個人差で向き不向きもあります。今後は、テクノロジーを使って、新しい物・モノが生まれますが、情報を様々なところから受取って判断をして、最初はお試し感覚でやってみると良いのではないでしょうか。
そして、自分に合った物は愛用して良いですし、自分に合わない物でしたら、「新しく自分に合う物を開発する」ことや、「従来からある物を使う」など…、自由に選択できるようにしておくことが重要です。
テクノロジーが加わる時代を生きるために大事なことは、人間とテクノロジーが共存することなので、どちらかに偏りすぎない考え方でいることが、ストレスになりにくく、快適に過ごせると思います。
当社としても、多くの人の声をできるだけ早い段階で聞いて、生活や仕事に使える物やサービス、仕組みを提供していけたらと考えております。
ここで、ムーンショット計画の記事は終了です!
ということで、「ムーンショット計画」は以上です。
9記事に渡り、お付き合いいただきまして、ありがとうございました。
当社では、様々な業種の事業プランニングを作成しています。
新しい時代も、仲間達と充実した時間を過ごせるよう、日々思考を巡らせていますので、何かお悩みごとがあれば、いつでもご連絡ください。
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